組織活性化コラム

「プロジェクト」はなぜ必要か?

    Q)「「業務」から人は育たない、「プロジェクト」から育てろ!」とおっしゃっていますが、その意味を教えてください。

    A)多くの企業を訪問して、直接「幹部の方々」と話をする機会があるのですが、本当の意味で「幹部」なのかどうか、疑問に思うことが少なくありません。たとえば、会社の「長期借り入れの概算金額」を尋ねたとき、「営業部長」も「工事部長」「工場長」「事業部長」も答えられなかったことがありました。ひどい組織になると「専務」や「常務」も答えられないこともあります。社長は、自信を持って「うちの幹部たちです」と紹介してくれるのですが、どうもおかしい。来月の売上げ予想も同様です。「総務部長」も「経理部長」も、当然「工事部長」も「管理部長」も「工場長」も「来月の売上予想」を知らない・・・・。

    なぜそんなことが起こっているのだろうと考えてみると、どうやら日本独特の考え方やシステムがあることに気付きました。
    たとえば、その「営業部長」は、たまたま営業部に長くいて、年齢が一番上になったので「営業部長」にしたらしい。「工場長」も同じです。工場に一番長くいるので「工場長」と言うわけです。なおかつ、経営陣からすれば、そろそろいい歳になったので、対外的に「肩書き」がないと何かと不便だろうから部長にした、などいう背景もあるようですね。つまり、「能力」を評価したのではなくて、年功序列的な観点から「部長」にして、それを「幹部」って言ってるんですね。

    Q)しかし、部長にとって一番大事なことは「専門性」なのではないですか?その部門で一番キャリアを積んでいる人が部長になる、というのは当然のことではないんでしょうか?

    A)はい。確かに「部長」に専門性は大切なことですが、しかし、それが一番重要なことなのかどうかは、一度考えてみる必要がありますね。
    たとえば

    主任は、「目の前」の業務から組織のことを考える人です。
    係長は、「一週間」くらいの業務から組織のことを考える人です。
    課長は、「一ヶ月」くらいの業務と、同僚の課長たちと「部内」から組織のことを考える人です。
    そして、部長は、「会社全体を見回して」そこから組織のことを考える人です。

    その意味からすると、「専門性」だけを考えるなら、それは「課長」に必要な要素、と言うことになりますね。「課長」に「部長」の仕事をさせるとどこかで無理がきます。

    Q)では、部長に必要な要素とはどんなものなんですか?

    A)本当に部長に必要なことは「マネジメント能力」です。軍隊で言えば、「司令官」のようなものですから、「本国の意向(組織の目的・目標)」「部隊の能力(部内のレベル)」「兵士の士気(部員の意欲)」「部隊に対する兵站(組織の資金力)」などを考えながら作戦を遂行しなくてはなりません。つまり「全体を見回す能力」が要求されます。

    Q)でも、それは誰にでもできることではないですよね。どうやってそういう能力を獲得すればいいんですか?

    A)だから「教育・訓練」が必要なんです。人間は放っておくと、楽なほうにしか流れませんから、組織の中で「教育・訓練」が欠かせません。

    Q)それって、「教育」で身につくものなんですか?

    A)一般的な意味での「教育・訓練」では無理でしょうね。普通、何かを学ぶときは、誰かに習ったり、本から学んだりするのですが、マネジメントに関していうとそれだけでは足りません。なぜならば。マネジメントは理論や理屈ではなく、実践のものですから、誰かの話を聞いたり、何百冊も本を読んで身につくものではありません。
    組織における「教育・訓練」は、【習得】と【体得】という二種類のものに分かれます。【習得】とは言わば「座学」で、人の話を聞いたり、事例を教えてもらいながら学ぶものです。【体得】とは、その学んだ「座学」を踏まえ実際に行動しながら学ぶことです。この【体得】がなければ、本当の意味で学んだとは言えません。そこで重要になってくるのが「プロジェクト」を通して【体得】させるというやり方です。
    組織の中で、ある「プロジェクト」を起こそうと考えると、ざっと以下の手順が必要になります。

    ① その「プロジェクト」の目的を理解する
    ② その「プロジェクト」を起こす際に予想される課題を抽出する
    ③ 必要なインフラ(人・もの・金)を洗い出す
    ④ その「プロジェクト」を一緒に行う人間(メンバー)を選定する
    ⑤ メンバー達に、「目的」と大まかな「活動予定」を伝える
    ⑥ メンバーたちと「タイムスケジュール」(工程)を協議する
    ⑦ その「プロジェクト」に必要な「予算」を計算し、トップの許可を得る
    ⑧ 「プロジェクト開始宣言」を組織の中に周知させる
    ⑨ 組織の人たちへ「教育・訓練」を実施する
    ⑩ 「タイムスケジュール」に従って活動を開始する
    ⑪ 実際の活動が上手くいっているかどうか「監視(チェック)」をする
    ⑫ 実際の活動が「成果」を挙げているかどうかを「監視」する
    ⑬ 上手くいっていない場合は「計画の修正」を行う。
    ⑭ ある程度「成果」が出た段階で、活動の「総括」を行う
    ⑮ 次の「ステップ」へ向けての「計画」作りを行う・・・・・

    Q)お聞きしていると、相当な手順が必要なんですね

    A)組織は、人間の集団ですから、丁寧な手順を踏んでいかなければ、形を作ることが出来ないのです。単純に「成果を出せ!」と経営者が叫んだところで、「魔法使い」ではないので、「テクマクマヤコン」と呟いても現実は動いてくれません。多くの「経営者の思いつき」が失敗するのはそれが理由です
    中学生の頃、「勉強」で子供たちが育ったのではなく、「クラブ活動」や「友人関係」あるいは「失恋」などという経験を通して大人になるように、「業務」からは人が育たないのです。
    中学の頃、嫌いな先生の授業でも受けなければならなかった理由は、卒業に必要な「単位」のためでした。一方、嫌な先輩がいるのに「クラブ活動」を熱心にやったのは、その「クラブ」が好きだったからです。好きだったから、嫌な先輩のいじめにも耐えられたし、時に不真面目な同級生や下級生達を「説得して」、成果を出そうとしました。

    実は、組織において最も大切な「リーダースキル」は、この「説得する」という行為なのです。同僚を説得する、部下を説得する、時に上司を説得する。こうした行為が出来る人間を何人抱えられるかが「組織の本当の強さ」なのです。そしてそれは、実際に「プロジェクト」を通してしか身につけられないことなのです。

    Q)それは「業務」では身につかないのですか?

    A)「業務」は、止められないものです。例えば、お客さんから連絡が来る、商品を手配する、商品を届ける、請求書を発行する、入金の確認をする、次のお客さんを探す・・・・。同時に、何件もの注文が来る・・・・。さて、この中でどうやってスキルを磨きますか。もちろん「業務」を通して専門性は磨かれて行きますが、それだけなら、言葉は悪いですが「専門馬鹿」が育っていると言うことになりますね。そしてその「専門馬鹿」が部長になっているので、冒頭のような「奇妙な風景」が生み出されているのです。

    Q)そうなると、マネジメントに関しては、年齢は関係ないと・・・・

    A)ある程度の「専門性」が必要と言う意味からすれば、キャリアは必要ですが、実際にはマネジメントに関しては年齢は関係ありませんね。むしろ本当の意味で「適材適所」を考えるべきでしょう。

    Q)確かに自分の経験からしても「授業」で育ったと言うより「部活の先輩後輩の関係」や「友人関係」の中で育っていったような気がします。そして「説得する」という行為が「業務の中」にはないというのも良く分かります。

    A)売上や利益を確保しなければならない経営者にとって、少々遠回りをしているように見えるかもしれませんが、「人財(材)」が育っていないのは、今までそうした丁寧な活動を行っていなかったからです。組織の「3年後、5年後」を本気で考えたら、今一度はらを据えて取り組まなければならない「組織課題」と言うことになります。

    Q)なるほど。「業務から人は育たない、プロジェクトから人を育てろ」ということですね。ありがとうございました。

    関連記事

    TOP