毎月博多で開催している「とじき塾」は、すでに9年続いている弊社のクライアント向けの研修会です。最近は以前に比べてずいぶん増えて、毎月60名を超える人達が参加しています。
今年の年間テーマは【人の差が組織の差】で、一年を通じて「人材(財)育成」に関して研修を続けています。昨今の企業組織の中で最も大きな課題は「価値観の多様化」です。組織の中にさまざまな考え方が混在していてなかなか全社一丸体制を追求できなくなっています。結果として
①世代間の意識格差
②セクショナリズムの見えない壁
③職位間による問題意識の差
などという現象になって組織の中の成長阻害要因を生み出しています。
こうした課題を解決するためには、5S活動など組織として全体を巻き込む活動が有効なのですが、それ以前に組織の中に「教育訓練」の仕組みが不可欠です。そもそも社歴も教えず、組織の経営理念も目標も教えず、具体的に必要な技術レベルもスキルも教えていないのですから、新入社員も中堅社員も成長のしようがありません。特に中小企業の場合は資金や人員に余裕がありませんから、そこで手を抜く。手を抜いた結果、社員が定着せず離職者が止まらない、という悪循環に入ってしまっています。2月から4月までの「とじき塾」では、そうした教育訓練の原理原則と、採用〜育成〜定着というサイクルについて話をさせてもらいました。
4月の「とじき塾」では、特に実習時間を設定して「自社オリジナルの教育訓練」について考えてもらいました。終盤の実習で「自社の新入社員に教えるべきこと」について行い、何社かの社長様に発表をお願いしました。その中で印象的だったのは、北九州のある製造系企業の女性社長さまの内容でした。「小さな会社なので・・」と控えめながらその社長が考える新入社員に教えるべきことは以下のようなことでした。
「まず、先輩の名前を覚える」
「次に、道具の名前を覚える」
「そして、会社の商品の名前を覚える」
「組織図を覚える。これはあとで試験をしたいと思います」
「その後に会社のルールをきちんと伝えたい」・・・
あまりにも当たり前すぎる内容ですが、実はこの言葉の中に社員を育てる本質があるように思います。新卒であれ中途採用であれ、新しく組織に入った人間にとって会社は全く新しい場所です。その場所に参加するスタートラインで共有しておかなければならないものはこうした「ベタ」な内容です。
私も30数年前、建設業界にデビューした時、業界特有の道具の名前がまったくわからず、相当に苦労したものでした。「カケヤ」「シノ」「バンセン」「サンギ」「タルキ」「バタカク」「バンジョガネ」・・・。現場で飛び交うそうした道具や材料の名前がわからず、それを知らないことで先輩諸氏から罵倒され、ものまで投げつけられたりしたものでした。その意味からすれば、そうした丁寧な新入社員への対応は重要なことです。
「とじき塾」が終わったあと、別の組織の若い女の子が、女性社長の言葉にいたく感動していました。
「そうなんですよね。あの社長がおっしゃったような思いやりのある仕組みがなければ若い子は育たないですよね。それがないから若い子がすぐに辞めてしまうんですよね・・・」
時代変化が大きな時代なので、より本質的な考察と仕組みが組織に求められているように思います。