ある自動車関連の業界の集まりで、組織活性化の勉強会を開催したいということで講師の仕事をしてきました。参加者は経営者だけではなく社員さん方も多く入っていたので、レジュメもいつも使うものから何枚か差し替え、分かりやすい仕様のものにして準備をして出かけました。
研修会の冒頭、私を呼んでくれた支部長様がこんなお話をされました。
「最近では、葬儀に関する礼状も堅苦しいものは少なくなり、自分の言葉で礼状を書かれる方が増えたようです。先日お客様からそうした礼状を頂いたのですが、その中に『主人は出かけるのが好きで、おかげで子どもたちも私もいろんなところに連れていってもらい、たくさんの思い出を残してくれました』という言葉が書かれていました」
「私達が車を売るということはこれですね。お客様の人生においていろんな思い出を作るお手伝いをしている、ということが我々の仕事であり、我々が頑張らなければならない理由です」
支部長様がそこまで話した時、ざわついていた会場がしんと静まり返りました。
「今日は、組織活性化活動の専門家の先生を福岡からお呼びしました。大変面白い話をたくさんしていただけるので、ぜひ理解して、自分たちの組織をこれからどうすればいいのか、ということを考えるきっかけにしましょう」
ざわついていた会場が静まり、全員の顔が持ち上がった状態で始まる研修会に失敗はありません。実に意欲に満ちた気配の中でたくさんの話をさせて頂きました。
組織の「使命(ミッション)」
ざわついていた会場がいっぺんに静かになったのは、支部長様が小賢しい社会情勢や小理屈ではなく、いきなり自分たちの「使命=やるべきこと」について語ったからでした。単純な売り上げ・利益などという目先のことではなく、お客の人生に関わっているという大きな枠組みを示すことにより、参加した人たちが心を開き、素直になったのでした。
組織を運営するためには「目的と目標」が必要です。同時に困難の中で、その「目的と目標」を達成させるためには「使命(ミッション)」が必要です。
「うちの使命は金を稼ぐことだ」と言い切った若い経営者がいます。「社長、そうではなくて稼いだ金で何をするのかということを訊いているのですが、いかがですか?」と丁寧に質問するのですが、どういうわけか「会社の目標も目的も使命も金を稼ぐこと」の一点張りです。思い余って私は言いにくいことを申し上げました。
「社長が金が目的だと言っているので御社の若い子たちもそう考えています。そして、若い子たちは、この会社じゃ金が稼げないと思って、もっと給料の高いところに移っています。なぜ若い連中の離職率が高いと思っているんですか?普段から社長が金稼ぎが目的だと言っていて、言葉を変えるともっと稼げる所へ出て行けと言っているからですよ。ここ3年で何人の若い子が辞めましたか?」
仏作って魂入れず・・・
最新式の機械を導入しても、最先端のシステムを導入しても、それを扱うのは人間です。その人間に使命感がなければ組織は継続的に機能しません。比較的低い賃金でありながら福祉系の人たちがいきいきと働いているのはなぜでしょう。時折「銭金ではない」と言う人がいるのはなぜでしょう。
どんなに形を整えたところで、そこに「思い」がこもっていなければ、働く人も顧客も疲弊してしまいます。自動車関連団体の講演で、一瞬のうちに「魂」が会場に注ぎ込まれるのを講師席で感じました。
さて、皆様方の組織の「使命」はいかがでしょう。きちんと組織に注ぎ込んでいますか?