事業規模に関わらず、業種に関わらず、経営者は絶えず「孤独」です。どんなに組織が充実して、業績が上向いていたとしても、経営者は「孤独」です。
「孤独」である理由は、その組織に関して【決定する】という一点において、その役目を担うのが、経営者以外にいないということにあります。
優秀な経営幹部をそろえ、その人たちとコミュニケーションが取れていたとしても、最終的に「何ものか」の【決定】は経営者が行います。経営者とは言え、スパーマンではありません。財務の専門家ではなく、営業の専門家でもなく、開発の専門家でもない。ましてや、関連する法律や手続きの専門家でもありません。何もかも経営者が精通しているということはありません。それでありながら、「何ものか」の【決定】を行わなければならない心細さは経営者以外には分かりにくいものです。
多くの経営者が、「協会」や「組合」、あるいは「業界団体」に所属し、他の経営者と活動や行動をともにしているという風景は、個人では獲得しづらい最新の情報を獲得すると同時に、経営者が持っている【孤独】の裏返しでもあります。誰が何をしているか、何を考えているかを知り、手本にしたり、あるいは安心感を得るための手段でした。
しかし、それは、右肩が上がり、業界が発展していた時代の代物であることに気付かなければなりません。政治が時代をリードし、経済がそれを支え、増え続ける人口が消費を生み出していたころの「遺物」と言ってもいいかもしれません。
現代は、「海図」がない時代です。
どこに障害物があるのか、どこに宝島があるのか、誰も教えてはくれません。
自分達で情報を取り、自分達でその情報を分析し、自分達で進むべき方向や速度を決めなけ
ればならない時代です。
売上が落ちているのは、従来の客が、従来の場所にいない、ということを示しています。利益が出ないのは、従来の方法や思考では、すでに対応できなくなっていることを示しています。人が育たないのは、従来の育成方法では間に合わなくなっていることを示しています。
にもかかわらず、多くの中小企業の経営者達が、昔と変わらず、仲間内の話に興じているのはどうしたことでしょうか。
社内の「会議」よりも、業界の集まりを優先する社長。
社内の「若者達」に興味を示さない社長。
社内の「課題」を誰かに任せてしまう社長。
組織は、船に似ています。
経営環境は、気象に似ています。
売上や利益は、波に似ています。
経営者の【孤独】は、船長の孤独に似ています。
船の中には、航海士もいれば機関士もいます。通信士もいれば事務長もいる。
船の針路や速度を決めるのに、船の外に相談をしてどうするのでしょう。船のことは船の乗組員に話さなければなりません。そのための「コミュニケーション」をいかに育てるのかも、また、経営者の【仕事】です。経営者の【孤独】は、その組織内の「コミュニケーション」でしか癒されません。
ここ数ヶ月、船(組織)から離れたまま、船(組織)のことを考えている船長(経営者)を見てきました。
改めて、現代が「海図のない時代」であり、組織の建て直しを計らなければ、前に進めないことを知ってもらいたいと思います。