足利銀行のシンクタンク、あしぎん総合研究所の「新入社員意識調査」というレポートを読みました。新入社員への働く目的に対する質問でもっとも多かった回答は「収入を得ること」で、前年と比較して大幅に伸び、76.2%だったそうです。次いで「自己の人間的成長」(42.7%)、「社会の一員として社会へ貢献すること」(33.6%)と続くのですが、いずれも減少しているということでした。
1945年(昭和20年)の終戦からすでに70年近くを経て日本社会は豊かになりました。左翼的思考を持った揚げ足取りが好きな一部マスコミは、日本社会の重箱の隅をつついてネガティブなことばかりを強調しますが、諸外国や世界史上で比較してもこれほど安定した国はありません。迫撃砲や銃弾が飛び交わず、疫病とは無縁で、なおかつ物質的な豊かさにおいて比較できる出来る国はありません。そして豊かさは成熟の証です。
社会の成熟とは、価値観の多様性です。人類の長い歴史の大部分は「食」を確保するというということとの格闘でした。狩猟時代から長い農耕時代を経て、工業化社会を迎え、サービス産業が栄えている現代は、生きる方法も場所も基本的には自由です。その自由さが価値観の多様性を可能にしました。
そして、現代社会の組織における課題もまた、その価値観の多様性との戦いです。
給料が安いので?
かつての支援先で、やたら明るい会社がありました。社長の口癖はふたつ。「金を稼げ!」「その金で遊ぶぞ!」です。少し丁寧に説明すると、
「会社の目的は金を稼ぐことだ。その金でみんなで遊ぶ。そのみんなとは働いている本人だけではなく、その家族も含めて全員のことだ。日々きつい思いをして働いているのだから、楽しく暮らさなくて何が人生だ。働け、働け!そのためにも残業はするな!集中して働け!仕事中無駄口は叩くな!困っている奴がいたら全員で助けろ!そしてみんなで楽しく遊ぶぞ!」
少々前近代的な経営方針で、その方針に付いていけず、すぐに辞めてしまう人間もいないわけではありませんが、残った人たちは「価値観を共有」しているために、実に明るく、仲良く、伸び伸びと仕事をしている。社長自身おおらかな口調の割に、きちんと利益管理をしているので着実に利益が確保できている。そしてその利益配分も家族のことまで考えているので、奥さんたちの会社への評判もきわめてよろしい。
さらば、世代間対立
65歳のベテランと22歳の新人を組織の中で放置しておくと、当たり前のことですが、対立が発生します。「最近の若い連中は!」「わからず屋の年寄り共が!」という陰口はある意味普遍的なものです。しかしながら「価値観の共有」が出来ている組織ではそれぞれの役割が明確で、おまけに風通しが良いためにそういう発言は少なくなります。ベテラン世代が自分たちの持っている経験から「知恵」を出し、若い世代が「時代の風」を組織内に吹き込む。組織におけるコミュニケーションが上手に取れています。
若い世代が最初から、人間的成長や自己実現を意識しているわけではありません。それを促すために必要な「組織風土」の醸成が重要です。経営者の仕事は、売り上げを上げることや利益を確保することだけではありません。いかに「価値観を共有」するかという大前提を意識した発言やマネジメントが不可欠なのです。
「給料が安いので離職率が高い」などというのは大嘘です。多くの介護施設は一般的な職種よりも平均給与は低いのですが、それでもいきいきと人々が働き、明るい職場はいくらでもあります。
新人社員の働く意味が「収入を得ること」であることは何も問題ではありません。大切なことは、それを使って何をするのかという「共通の価値観」を持てるかどうかです。
組織活動における優先順位は大事ですね。