表題の「アソビ」と「ユルミ」は、本来「遊び」と「緩み」と表記されます。
一般的な意味での「遊び」は、楽しむ、娯楽、休養、リラックス、ストレス 解消などの目的で生物がする行動の総称のことですが、ここでは「工学的」な 意味での「遊び」のことについて書きましょう。
工学における遊び(あそび)とは、機械や装置の操作を行う機構(ユーザー インターフェイス)に設けられる、操作が実際の動作に影響しない範囲のこと を言います。 例えば、ハンドルやブレーキに「遊び」がないと、実に危険です。ちょっと肩 を動かしただけで、ハンドルが過敏に作動したり、ちょっとブレーキに触れた だけで、ブレーキが効き始めるとすると、ドライバーは極度の緊張の中で運転 をしなければならなくなります。 私も若いころ、レーシング仕様の車を運転して、ハンドルの感度の良さに驚き ながら、素人ではとてもコントロールできるものではないということが良く分 かりました。指先でちょっと動かしただけで、車体がカーブするのです。スピ ードを出していたら、いっぺんに転倒してしまいそうなほど、遊びのないハン ドルは危険でした。
鉄道の「レール」にも「遊び」があります。
「レール」は金属で出来ています から、寒暖の差によって「膨張」「収縮」します。もし、「レール」の接合を 寸分たがわずぴったりとくっつけておくと、夏場の気温の高い時期には接合部 分が持ち上がり、脱線の原因となります。ここでも適切な「遊び」がなければ 危険を呼び込んでしまうことになります。 同じように「組織」でも、「動作」や「接合」には、「遊び」が必要です。
組織の中での「仕組み」が、あまりにも「キチキチ」としていると、ドライバ ーが極度の緊張を強いられるのと同じように参加者が萎縮します。組織の中の 「上下関係」の接合もきっちりと「役割分担」を決めすぎると、気象変化でレ ールがゆがむように、ちょっとした条件の変化に素早く対応できず、硬直した ままで時代変化を見逃してしまうかもしれません。
しかし、その「遊び」が大きいと、機会も組織も鈍いものになってしまいます。 ハンドルを一回転させる動作の半分が「遊び」だと、ドライバーが意思を持っ てハンドルを操作しているのに、タイヤはいつまでも動いていないという悲惨 な状況になってしまいます。 「遊び」が大きすぎることを「緩み」と言います。「遊び」と「緩み」は、見た目には似ていますが、実はまったく意味が違いま す。
多くの企業の「会議」に参加させてもらう時、その「遊び」と「緩み」がまっ たく理解されていないシーンに遭遇することがあります。一見、粛々(しゅく しゅく)と行われているように見えて、実際には「ゆるゆる」とした仕組みで 結果がいつまでも見えてこない会議もあれば、「遊び」がないために参加者が 萎縮し、下ばかりを向いている会議もあります。
「アソビ」と「ユルミ」の見極めが大切です。 さまざまな取組みに挑戦しながら、結果が出ないのは、その見極めが不足して いる場合があります。