組織活性化コラム

花束をもらう

     「仕事」をしている以上、いつもいいことばかりがあるわけではありません。特に「組織」の中に踏み込むことがある職業だけに、時に落ち込むことも少なくないのです。聞かなければ良かった話や見たくない場面に遭遇すると、気分が沈む。無論、専門家なので、かわし方やしのぎ方は知っているけれども、へこみが澱のように溜まり、ため息をつくこともあります。そして、ため息をつくと、自分の目的や目標や方向が、揺らぐ・・・・。

     

    ある組織で、契約上のコンサルティング期間の終了時に、「プロジェクト」に参加してもらったリーダー達に感想を述べてもらい、それをDVDに撮影をしました。目的は「全社」にその活動プロセスを知ってもらいたいという思いと、「役員会」の方々にもそれを見てもらいたいと考えたからです。
    本来「組織へのフィードバック」は、組織自らの仕事なのですが、さまざまな事情からそうした丁寧な行為が行われることは少ないように感じています。一般社員と役員との距離は遠く、また100人を超す組織になると、どのように伝えればいいのかという方法論から組織の人々は悩まなければなりません。であれば、そこまでがコンサルタントの仕事、ということにもなります。
    そして、今回、「役員会」の方々には、そのDVDを見た感想を所感にして頂くという作業もお願いしました。昨年の10月に合併をした組織だったので、組織全体の「一体感」には、まだまだ不足しているものがありました。もしその不足しているものを補うとすれば、真っ先に「役員会」がまとまらなければなりません。そのために必要なことは【情報の開示】だと感じていました。それも、下から上の情報や上から下の情報だけではなく「横の情報」も是非共有して頂きたいと考えたのでした。つまり、誰がどんなことを考えているかということも共有する必要があると思ったのです。

    昨日、別件でその組織を訪問した際、「役員会」の方々の所感を頂きました。10枚の所感は、どれもびっしりと文字が書かれ、各役員の思いが熱く込められていました。新幹線の中でその所感を丁寧に読んでいるうちに、「Y常務様」の所感のところで、不意に胸が熱くなりました。

    以下、敬愛する「Y常務様」の許可なしに、最後の「総合所感」を引用させてもらいます。

    ことフィットネス業界においては2006年秋くらいからマニュアルが通用しない時代に入ったと肌で感じていました。企業を永続させるためにはビジネスモデルやマーケティングの知識を後進に伝えるだけではいけない時代であると考えていました。
    私自身もわからない未来を当社が生き残るためには、環境変化に合わせて企業を変容させることのできる人材がたくさん育たないとすぐにでも破綻する懸念を抱いていました。5Sは合併後に知ったプログラムです。掃除というシンプルな行為の中に不思議な力があることも最近感じていることです。
    店舗という閉ざされ、一日をルーチンワークで占められた職場の中で、次代を背負う人材を育成することに一定の限界を感じていた私にとって、5Sは出会うべくして出会ったものかもしれません。このDVDを見て、未来への光明を感じています。感謝。

    【合併】という企業人として「修羅場」を潜り抜け、なおかつ合併部門の最高責任者として全国を駆け巡り、奮闘されている人物です。

    岡山から博多へ向かう新幹線の中で、この文章を読みながら、不意に周りの空気が明るくなるのを感じました。この数週間、個人的に思いつめていたいくつかの事柄が、「常務様」の言葉で氷解していくのが分かりました。
    今回のコンサルティングで見違えるほどの人材が輩出したわけではありません。しかしながら、私が密かに目的にしていた「自ら考え、自ら行動する人間」に近づいたリーダー達が何人かいました。それまで、与えられた仕事をすればいいのだろうと「ルーチンの枠」に閉じこもっていた人間が、自分たちの言葉で、業務や仕事のことを考えるようになっていたのでした。それは経営陣の目からすれば、まだまだ幼すぎ満足のいくものではないかも知れないけれど、そしてそれはわずかな変化に過ぎなかったかも知れないけれど、「常務様」には間違いなく伝わっている。

    リーダー達の変化に気付いてくれた「常務様」の慧眼と、一人ひとりのリーダー達への適切な指摘と所感が、私が思いつめていた自らのミッションとシンクロをしたような気がしました。
    【プロジェクトを通して、その組織が必要とする「組織人」を育成する】
    それが、私のミッションです。

    それに改めて気付いた瞬間に、思いもかけず「花束」をもらったような気分になりました。

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