前夜、深夜に熊本から宮崎へ移動したのは、今日会いたい友人がいたからでした。
30年近い付き合いのある友人が、年末「大手術」をしました。年が明けて一度見舞いに行ったのですが、まだ退院していませんでした。同い年ということもあって、随分と気になっていました。
30年来の友人ですから、何一つ遠慮することはありません。病状のことも体調のことも、すべて率直に尋ねますし、友人も何一つ隠すことなく答えます。すでにお互いに相応な「大人」なので、現実を直視する術(すべ)くらい持っています。若い頃からのお互いの苦労も、お互いの失敗も、お互いの強みも弱みも知り尽くしている間柄です。
友人でありながら、彼もまた経営者なので当然「経営」の話もします。
「とじきよ。もう今はちまちまと行動計画を決めている時期ではない。決めたことをやり抜くことのほうが大事なんだ。だから、俺が決める。この2つのことを絶対にさせる!」
病室にパソコンを持ち込み、書きかけたメモを私に見せながら友人はそう言いました。
組織において「トップ」が間違うことはあります。多くの場合、その間違いは、時代を読み間違えたり、時期を逸していたり、方向が誤っていることに原因があります。よって、その「トップ」の決め事は可能な限り検証を行う必要があります。経験上から言わせてもらえば、「自分の体を通っていない言葉」で「トップ」がものを語り始めた時に、誤りが発生します。
「コンサルタントがこう言っているから・・・」
「銀行がこうしたほうがいいと言っているから・・・」
「新聞にそう書いてあったから・・・」
「業界ではこういう流れになっているから・・・」
・・・
こうしたことをきっかけにして「トップ」が物事を始めた時、何かが少しづつ狂い始め、結果的にミスを誘発してしまいます。
ところが「企業」にとっては、「経営者」の【決断】が全てです。「経営者」がこうやりたい、と願ったことがもっとも正しいのです。
「いや、それはおかしいのではないか?」
と所属する人たちが思ったとしたら、なぜ正しくないのかを「経営者」が納得するように説明しなければなりません。もしそれで「経営者」の判断がひっくり返るようであれば、所詮その程度の【決断】だったというだけのことです。もし反対する社員がいたら、辞めさせればいいのです。「経営者」の【決断】に賛同する人間だけを集めてしまえばすむことです。
「組織」と「企業」は、重なる部分は多くありますが、本質的に違うものです。
「企業」にとって、「経営者」の【決断】が全てです。だから「経営者」は寸暇を惜しんで勉強をしなくてはならないのです。
「企業トップ」としての強い言葉を聞きました。
「とじきよ。もう今はちまちまと行動計画を決めている時期ではない。決めたことをやり抜くことのほうが大事なんだ。だから、俺が決める。この2つのことを絶対にさせる!」
友人の体調を考えれば、長居は良くないことだったのですが、3時間ほど病室にいました。途中で何度もナースが顔を見せます。
「こいつ、突き抜けちまいやがった・・・」
様々な言葉を交わしながら「経営の本質」について、語り合っていたような気がします。
見送らなくてもいい、というのに友人は体を起こし、ドアのところまで見送ってくれました。がっちりとした体格だったのですが、「大手術」のあとで体が二回りほど小さくなっています。
ありがたい事に、「声の張り」も「目の力」も失ってはいません。むろん、友人である私の前で強がっていることも分かっています。
病院の駐車場で、車に乗り込み、いくつかの「友人の言葉」をメモしました。
日付と病院名を書き込み、最後に「突き抜ける!」とタイトルをつけました。
「大切なこと」を教わった一日でした。