とじき雑感

中国人の親子 〜bon voyage〜

    このところ、中国の観光客が多い。旧正月は終わったはずなのだが、それでも福岡市内のあちこちで中国人旅行客の姿を見つけます。特に弊社のある博多区は、神社仏閣を始め古い建物が多いため、かなり狭い路地にまでカメラを持った中国人がいる。数年前は驚いたりしていたが、最近では日常的な風景になりつつあります。

    週末に頼んでいた眼鏡が出来上がったという連絡を受けて、開店と同時にメガネ屋を回ったため、いつもと少し違う時間帯に博多駅を通りました。一日に35万人近い人達が博多駅を使う。駅から5分ほどのところに住んでいる私は、ほぼ毎日その駅を抜けてオフィスに向かうので、時期や時間帯で利用客の違いが分かります。平日の午前中なのでやはり観光客の姿が目立ちます。
    筑紫口から博多口へ向かうコンコースを抜け出ようとした時、中国語が聞こえました。ふと振り返ると、若い男性が車いすを押して椅子に載せた女性と話をしていました。歳の頃は、男性が24,、5歳、女性が私と同じ50代後半でしょうか。どう見ても親子という風情です。女性が何かを話すと、息子と思しき若者が耳を近づけ受け答えをしていました。女性がコンコースの柱に設置されたディスプレイを指さすと、息子が車いすを押して柱に近づき、デパートの案内表示を見てまた話し込んでいました。
    行き交う人達の中で、何やらその二人のいる場所だけが暖かく見えてしまいました。

    日本は、異国です。その異国に車いすに座る母親と思しき女性とともに来日をしている息子の心根を思うと、少々羨ましくなる。間もなく24歳になる私の「バカ息子」と重ねあわせながらその優しさに胸を突かれる。果たして、今の日本に、車いすの母親を抱えて異国へ向かう若者がどれくらいいるのか。

    「とじきよ。中国には悪い奴が日本の10倍いる。同時にいい人も10倍いる。べっぴんも10倍、ブスも10倍だぁ。国のスケールが違うんだ。そこを分からねぇとあの国は理解できん!」
    学生時代に親しくしてもらった国際派の先輩の言葉を思い出します。
    ネットを覗きこむと、中国や韓国の悪口が垂れ流されています。しかし私の知る中国人の経営者も韓国の経営者も嫌な人は一人もいない。つまり、私の知る現実とネットで流布される言説は随分乖離している。
    ふと、もう一度つぶやく。車いすに乗る母親を抱えて異国を旅する若者がこの国にどれくらいいるのか。

    コンコースを抜けてもう一度振り返ると、笑顔で話す母親の言葉に頷きながら、ゆっくりと車いすを押す若者の姿がガラス越しに見えました。駅舎の外は小雨が降り始めていました。中国人の親子のために天気がこれ以上崩れないことを祈ります。数年前、親を車いすに乗せて二泊三日の旅をした経験からすれば、両手がふさがった状態での雨は実に辛い。乗っている人に傘をさしてもらっても、押している人の背中はびしょ濡れになります。

    「bon voyage ボン・ボヤージュ(どうぞよい旅を)」
    メガネ屋のおかげて、良い景色と巡り会えました。

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