5S活動

失敗する「5S」

    「5S」は「片付け」ではないのに

    5S活動に取り組んで、失敗したという組織は少なくありません。失敗した理由はいくつかあるのですか、一番多いのが「5S=片付け」という誤解です。
    片付けと5S活動は、まったく違うものなのですが、そこがなかなか分かっていただけない。
    そもそも5S活動は分かりやすいものです。綺麗な空間と汚い空間のどちらがいいか、必要なものがすぐ取り出せるのといつも探しまわるのとどちらがいいか、気持ち良く挨拶をしてもらうのと無視されのはどちらが気持ち良いか?
    よほど人間として性根が腐っていない限り、選ぶ方は決まってきます。年齢、性別、世代、職種、業種に関わりなく、それは決まります。何よりも5S活動は、その成果が、目に見えるので、わかりやすいのです。この「目に見える」というビジュアル化された改善成果が、5S活動の最大の魅力であり、同時に一番の落とし穴です。

    そもそも「片付け」とは「片一方にくっつける」ということで、目の前にスペース(空間)を作るだけの単純作業です。何も考えず、ただ目先のものを「横に」どける。年末やお盆前に組織で行う「大掃除」などがその典型です。とにかく半日か一日でやってしまわなければならないので、全員が何も考えない。ただひたすらものをよける。結果、二週間もすると「元に戻る」のです。「単純作業」なので、単純に壊れてしまう。実に分かりやすい構図です。
    それに対して「5S活動」は、仕組み(システム)なので、達成するためには「プロジェクト」という考え方が必要になります。「プロジェクト」とは、「ある目標を達成するために集団で行う計画と行動」のことですから、当然、責任者が必要になります。その責任者を中心にして「計画表(工程)」をつくり、「予算」を立て、「実行」することになります。これは単なる「片付け」ではありません。会社の仕組み作りです。

    「点」の活動で終わる

    「5S活動」は、決して「点」の活動ではありません。5つ(整理・整頓・清掃・清潔しつけ)の要素のつながりです。

    1. 整理:不要なものを捨てる。必要なものが残る。
    2. 整頓:必要なものを再配置する。誰が見ても分かるように表示する。
    3. 清掃:箒や雑巾を使って掃除をするときに、「点検・保守」をする。
    4. 清潔:整理、整頓、清掃という3S活動を継続して行う。
    5. 躾 :決められたルールを全員で守る。

    この5つの要素が「手順」として確立していなければ「点」の活動で終わってしまい、「片付け」と同じように、すぐに元に戻ってしまいます。

    「まず、【表示】をきちんとしよう!」
    などという取り組みは「点」の活動です。
    「あいさつをきちんとしよう!」
    これもまた「点」の活動です。
    「徹底的に【掃除】をしよう!」・・・・・

    そこには、「目的」がなく、「目標」もなく、「責任者」もなく、「教育訓練」もない。そして「工程」すなわち、いつまでにどのレベルまでする、という全体像もありません。つまり、単なる「スローガン」に過ぎない・・・・。「5S活動実践中」という大きなポスターを壁に貼り付けながら、そのポスターの下が「修羅場」だった組織を知っています。

    「維持」「修正」を考えない?

    「5S活動」は、仕組みなので、「維持」をする、という要素も組み込まなければなりません。「ルール」「チェックリスト」「チェック体制」が確立していなければ、一度作り上げた仕組みも熱を失ってしまいます。まして、時代変化の速度が極限まで高まっている現代において「修正する」という要素も必要です。通信やデータ処理、顧客情報や発注処理など、それこそ日進月歩で進んでいるのです。
    「準備~人選~権限~計画~承認~教育訓練~実行~ルール策定~教育訓練~チェック~修正」という大きな流れが組織の中に必要なのですが、単なる「片付け」や「点の活動」ではそれらを推進してはいけません。
    そして、何よりも活動が「利益」に直結していることを組織に分からせる、という仕組みが必要です。
    自社の「5S活動」の目的がどこにあるのかを明確にしなければ、組織に所属する人たちの「熱」は急速に冷めてしまいます。そのためにも、「維持」「修正」できる体制が必要なのです。

    経営者の「思いつき」

    「5S活動」の失敗原因の最大のものは、経営者の「思いつき」です。
    弊社のセミナーなどでは、取り組み組織の「写真」や利益改善の証拠となる「資料」を具体的にお見せするのですが、単純に「5Sをすれば儲かる」と考えた経営者が、突然「5S活動」と叫びだすのです。そうした「思いつき」から出発した活動の末路はあまり芳しいものにはなりません。

    「5S活動」が「利益」に直結していることは間違いはありません。無駄な動きや無駄な支出が減ってゆくので、当然利益が上がっていきます。ましてや「5S活動」と親和性の高い「限界利益管理」と組み合わせるので、組織によっては驚くような利益改善が可能です。しかし、本当の意味で「利益」が上がる理由は、

    1・「計画」に従って、全員で動いた
    2・組織で決めたことを全員で守った
    3・全員でひとつのプロジェクトを成し遂げた

    というところにあるのです。これらは、上から押し付けて達成できることではありません。社員たちが「自ら考え」「自ら動いて」初めて花開くことなのです。つまり、「人が育つ」ことにより、成し遂げられることなのです。この「人を育てる」という意識がないままに、漠然と始めた「5S活動」はたとえ見た目には「片付けた」ように見えても、所詮「片付け」なのです。経営者の冷静な「将来像」がなければ「人」など育つわけがありません。活動の動機が「経営者の思いつき」であった場合、失敗してしまう可能性はかなり高くなります。

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