昔、「軍艦」に乗せてもらったことがあります。正式には、【海上自衛隊 護衛艦】なのですが、世界の常識では、自衛隊は軍隊であり、「護衛艦」は「駆逐艦」「フリゲート」に分類されているので、当然「軍艦」です。
中学、高校と一緒だった友人が海上自衛官となり、そこそこ出世してくれたおかげで、ある日曜日、横須賀基地で「軍艦」の内部を見せてもらいました。友人の自衛隊での教え子が、当直だったため、現役の自衛官の案内で艦内を見せてもらえました。
自分を「組織の専門家」だと考えているので、質問もかなり細かく、「通常」と「非常」、「連絡体制」「緊急時対応」と相手が返答に困るほどさまざまなことを訊く。同行した友人が
「とじき、それ以上は機密事項だ」
と釘を刺すことしばしば・・・・。
写真撮影を禁じられたまま、艦内を見て回っていると、若い「兵士」たちが艦内の補修作業をしてる風景に出食わした。数人が床に向かって塗料を塗る作業でした。国家財産である「軍艦」の維持補修作業は重要な任務だと言う。狭い通路を前後上下に上り下り師ながら、別の若い「兵士」たちが【ねじ】を磨き上げている作業現場を通り過ぎた。
「【ねじ】まで磨くのか?」
友人にそう問いかけた私に、友人の教え子は、こんな言葉を言った。
「船は、みんなの命がかかっていますから。どこかで手を抜いた状態で戦闘状態に入ってその手抜きが原因で全員が死ぬことだってあります。ですからそうしたところで手は抜きません」
正確ではないが、そんな意味のことを言った。
「組織の専門家」としては、そういう台詞を聞くと、当然こんな質問が口をつく。
「さまざまな経歴をもった人間がひとつの船と言う閉鎖空間に押し込まれて、不協和音、例えば喧嘩などは起きないのだろうか?」
しばらく考えて、友人の部下が答えた。
「陸自(陸上自衛隊)と違って海自(海上自衛隊)は、そうしたことが少ないと思います。陸自は出身部隊や経歴などで諍いが多いと聞きますが、海自の場合はそんなことをしていると、全員の命に関わりますから、船の中ではめったにそんなことはありません」
全員の命に関わるので、日曜日に【ねじ】を黙々と磨く若い「兵士たち」。全員の命に関わるということを理解した「組織」・・・・・。
「組織」のあり様と、「組織」の行方を考えるとき、忘れられない一日でした。