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「先生、チャイナフリーって知ってますか?」

「ああ、知ってるよ。中国産の材料や製品を使っていない、と言う意味で、3,4年前からアメリカで使われ始めた言葉だ。一連の中国製品への不信感からチャイナフリーというシールを貼ったりしていたんじゃないかな」

「日本でも、チャイナフリーって可能ですかね?」

「さぁ、どうだろうね。食料や衣料品などはかなり中国産が入っているからなかなか厳しいかも知れないね。パソコン関係だって、部品などは各国で作ったとしても組み立ては中国だったりするから、なかなか大変だろうな。先日もある大学の准教授が、スーパーに並べられている野菜も果物も肉も国産品じゃないか。食物自給率など気にすることはない。TPP大賛成だ、というとんでもない話をしていたけれど、朝から晩までスーパーで生産国を確認しながら食事をしているわけではない、という意味からすると、加工食品の中には相当数の外国産、特に中国産が入っているだろうから、日本でのチャイナフリーは無理かもしれないね」

「何で、中国って経済的に強いんですか?」

「んっ?」

「あっ、人件費が安いからなんて、月並みなことは言わないで下さいね。そんなの分かっていますから。先生の意見として、中国がなぜ強いのかを教えてください」

「おいおい、今日は随分と突かかってくるじゃないか、どうしたんだい?」

「・・・・・」

「まぁ、いい。結論から言えば、中国という国は【違うルール】で戦っている。例えば、サッカーで手を使っていいのはキーパーだけだが、他の選手も手を使っていいよ、という【違うルール】で試合をして、勝っている、というところかな」

「【違うルール】ですか?」

「うん。一般的に資本主義国家は自由主義を標榜しているので、コストが高い。例えば社会保障制度や基本的人権の尊重や言論の自由を維持するために高いコストを必要とする。違法行為があれば裁判が開かれ、結果によっては高い賠償金を支払わなければならない。だからそうしたことが起らないように、さまざまな手立てを準備する。自由主義はそういう意味からいえば、不経済な国家システムなんだ。それに対して、中国は資本主義は認めるが、自由主義国家ではないので、そうしたコストを必要としない。国民や社会の不満や不平を無視してでも目的を追求できる」

「・・・・・」

「まぁ、極端な例えだが、つい150年ほど前までアメリカで当たり前だった奴隷制度を維持しながら資本主義に殴り込みをかけてきた、ってところかな。アメリカの南北戦争の終結は確か1865年だからわずか146年前だよ。ちなみに明治維新は1868年だからやはりつい最近までの制度と言っていいかもしれないね」

「・・・奴隷制度ですか?」

「極端な例えだよ。人権問題や社会保障をあまり考えなくていい、と言う意味では似ていると思って使っただけさ。いずれにしても、今までの国家とは【違うルール】で戦っている。だから、強い」

「でもそれって、卑怯ですよね」

「・・・・・卑怯??」

 

「だって、【違うルール】で戦うなんて、卑怯ですよね!」

「うーん、卑怯ねぇ・・・・」

「君は、源義経が卑怯だと言われていたことを知っているかな?」

「はぁ、義経ですか?」

「ああ、壇ノ浦の戦いで義経率いる源氏側は勝利したが、それはとても卑怯だったというんだ」

「・・・・」

「古来、海上の戦いにおいては、水夫は弓矢では狙わないというルールがあったそうだ。特に西日本の戦いでは海上戦が多かったので、お互いの水夫は狙わないことにしていた。水夫が殺されるかもしれないということになれば、戦争の手伝いをしてくれないからね。ところが、東人(あづまびと)の義経たちにはそんな常識やルールがない。だから接近したら、鎧もつけていない水夫達を狙い撃ちにした。その結果、船を操る人間がいなくなって船が次々に衝突して、あっという間に平家の武士達は討ち取られた。その時、口々に平家の諸将は、義経、卑怯なり、と叫んだというんだが、知っていたかい?」

「・・・・いいえ・・・」

 

「文久・弘安の役で知られる、元寇襲来の時、鎌倉時代の武士達は、最初の頃、笛のように音の出る【鏑矢(かぶらや)】をモンゴル兵に向けて打ち込み、そこから戦いの場所に一騎で駆け出し、古式ゆかしく【名乗り】を上げていたら、いきなり矢を射掛けられ、戦闘の当初随分苦戦したらしい。その時、こちらの【名乗り】も聞かず、戦闘を開始したモンゴル側を、鎌倉武士達は、卑怯なり!と叫んだというが、君は知っているかな?」

「・・・・いいえ」

 

「織田信長という人も、随分卑怯呼ばわりされているね」

「・・・信長ですか?」

「ああ。戦国時代というのは、大体100年くらい続いたんだが、その前期や中期の戦いは随分のんびりしたものだったらしい。各地の豪族達が抱えている兵隊は、自分達の領土の百姓達だったので、春と秋には、戦争をしないことになっていた。何しろ、食料がなければ戦なんて出来るわけがない。だから、お互いに春の田植えと秋の稲刈りのときは戦いを避けていたんだね。ところが、信長という人物は、楽市楽座を興し、自由に経済を動かすことにより、銭で雇うことの出来る兵隊を作り上げたんだ。そうなると、春も秋も関係なく、相手を攻めることが出来る。攻められた方はたまったもんじゃない。本来戦争をしたくない時期に、信長が攻めてくるんだ。浅井長政なんかも、そのやり方に、信長卑怯なり、と叫んだという記録があるらしいよ」

 

「・・・・・」

「・・・卑怯って、どういう意味だろうね?」

「・・・・」

「もし何かが上手くいかなくて、関係する人間たちに対して【卑怯】って言葉を使うときは、一度考えてから使ったほうがいい。卑怯って叫ぶときは、自分が負けている時の言い訳かもしれないよ。軽々しく、卑怯なんて言葉は使わないほうがいいかな・・・」

「・・・・・うーん」

「でも、先生、何でそんなにいろいろなことに詳しいんですか?」

「さぁな・・・・。でも、歴史の勉強は悪くないぜ。歴史上での、勝ち組にも負け組みにも、それぞれの事情があるんだ。そのときに、日和見を決めた連中にもそれぞれの事情がある。参加することが出来なかった連中にもまた事情があった。それぞれの事情をたくさん知ると、おぼろげに見えてくるものがあるさ。君も組織を率いてこれから何十年間を過ごすつもりなら、アニメ番組ばかり観たり、ゲームばかりせずに、歴史の勉強をしてみればいい」

「・・・どんな本を読めばいいか、教えてください、って言っても先生は教えてくれないんですよね。取っ掛かりは、自分で作らないといけないんでしたね」

「あらら、少しは大人になったのかな?」

「先生との付き合いがどれくらいになると思っているんですか。先生が、意地悪なのは良く知っていますから!!」

「その意気だ。がんばれ、若者!!おっさんなんか、当てにするんじゃねぇ!!」

「先生は、歴史上の人物で言えば、嫌われるタイプの人間ですよね」

「おう、それって、最大の褒め言葉だぞ!」

「・・・本当に、嫌な人だ・・・・」

「ありがとう、若者!!先生、ウレピィー!!」

「・・・ふぅ・・・」