ある企業の「経営計画」作りのお手伝いをした時の話です。
経営理念のところで、事前に「質問事項」を渡して、社長の言葉で組織を考えていただこうと思った。
そして、最初に出てきた社長の言葉が【働きやすい、明るい職場を目指して】というものでした。理念として行動指針として、おかしなものではない。言葉のバランスとしてもおかしくはない。
しかし、すでに社員さま方からアンケートを頂き、組織のどのあたりの部分に「問題があるか」ということは大雑把ながらつかんでいるのでこの表現のまずさが良くわかる。
「社長、明るいってどういうことですかね?」
「いつも笑顔で、笑い声があって、コミュニケーションが取れているということですかね」
「なるほど、分かりました。では、真夜中と夜明けはどちらが明るいですか?」
「それは決まっています。夜明け前です」
「それでは、夜明け前と真昼はどちらが明るいですか?」
「そんなもん、真昼のほうが明るいに決まっているじゃないですか!」
「そうですね。では、夕暮れ時と夜はどちらが明るいでしょう」
「夕暮れですねぇ・・・」
「それでは、夜明け前と夕暮れ時はどちらが明るいですか?」
「うーん、・・・・・」
経営理念や行動指針に「明るい」という言葉は良く使われています。
しかし、その時、気をつけなければならないのは「明るい」という言葉が【抽象語】であるということです。【抽象語】は、「個人」を突き動かすことはありますが、残念なことに「組織」では混乱のもとになりかねないのです。時には、混乱さえ引き起こせず、組織の中を「スルー」してしまうことも少なくありません。
阿蘇山は高いか低いか?
熊本で尋ねれば、皆高いと答えます。近隣の山の中で最も高いのだから確かに高い。しかし、隣の大分県の九重山は阿蘇山より高いのです。(阿蘇山標高1592m・九重山標高1791m)ところが九州で最も高い山は、屋久島宮之浦岳標高1935mなのです。
そして、当然、富士山は3776mで日本一高い山であり、本州には2000m級3000m級の山々が連なる・・・。世界に目を転ずれば・・・・・。
さて、阿蘇山は高いのかどうか・・・・。
「明るい」「高い」「早い」「暖かい」・・・・。こうした【抽象語】は、個人を突き動かすことがありますが、「組織」ではそれが混乱のもとになりかねない。
夕方までその社長様と話をつづけ、「魂の籠った言葉」が出来上がった。こうなったらしめたもので、これに「数値計画」が付いてくる。【抽象語】ではない「理念・方針」に初めて「計画」が付いてくるのです。
会社の「経営理念」や「経営指針」に「魂」はこもっていますか?ひょっとして「明るい」「高い」になってないでしょうか。