ある日、遠慮のない間柄の経営者たちと飲んでいる最 中に、ふたつ年上の社長がこう言いました。 「戸敷!商売と経営の違いを 500 字以内で説明しろ!」

酒が入っているのでえらく威勢がいい。

「500 字じゃ無理だ。2000 字位なら説明してもいい」

こちらも酒が入っているので、遠慮なく言い返す。

「分かった。2000 字以内で話せ!」

みんな箸をおいて、私の方を見ている。

 

 

「マネジメントというのは、人・モノ・金と情報を適切に組み 合わせて【成果】を上げることを言う」

「おい、マネジメントじゃなくて商売と経営の話じゃねぇの か」

私と同じ歳の社長がそう混ぜっ返す。

「まぁ聞け!商売も経営も同じように【成果】を目指してい るので、見た目は一緒だ。人とモノと金で苦労するし、い つも情報を追い求めている。その時違うのは、目的と時 間軸だ。商売は基本的に短期で物事を考える。なぜなら ば目的が金を儲けることだからだ。目的が金儲けなので、 さまざまなシーンで短絡的に事を運ぶ。例えば、使えな い従業員がいれば、すぐに辞めさせる。使えなければ代 わりを持ってくればいい、と考える。商品が売れない時も、 この商品はつまらないから売れる商品を探せ!とトップ が叫ぶ。いい意味でも悪い意味でも判断が速いし、行動 も速い。売上の上がらない店などすぐに閉めてしまう。つ まりマネジメントのサイクルが短い」

 

「使命」と「時間軸」

 

「それに対して、経営は金を儲けることを目的としつつ、 その奥にその金を使って何をするかという使命を含んで いる。その使命は組織としての社会的使命であったり経 営者自身が考える個人的な使命だったりするが、いずれ にしても金儲けだけが目的ではない。なので、経営は少 しマネジメントのサイクルが長い」 「商売人は使えない人間は使える人間に取り替えようとするが、経営者は、さてどのように育てようかと考える。その 人間の性質や資質や育った環境を含めて、育成すること を考える。取り扱う商品やサービスに関しても、売れない から売れるものを持ってくるではなくて、その良さを顧客 にどう伝えなければならないかを考える。考える分だけ 時間がかかる。つまりマネジメントのサイクルが長い」

「しかし、合理性や生産性を考えたら取っ替えたほうが速 いんじゃねぇか?」

別の社長が遠くの席からそう言った。

「そうだ。手っ取り早さから言えば、取っ替えたほうが速い。 いわゆる米国式とでも言うべき合理的な考え方だ。俺は それを【竹中方式】と呼んでいる。小泉時代の構造改革を 進める時に、竹中平蔵がやったことがそれだ。彼は職人 を労働者と考えていた感じがする。職人は、丁稚 3 年、手 元 3 年、修行 3 年と言って育てるのに 9 年ほどかかる。9 年かけてやっと一人前になるというのに、竹中の野郎は 職人まで労働力と言い換えて、一人足りないのなら外国 人でもいいから一人連れてくれば勘定が合うじゃないか という施策を打った。郵政民営化などその際たるものだろ う。バス路線を潰し、自由化を進め、挙句【人を育成する】 ということを排除した。その結果この国や企業で起こって いるねじれの原因を作っちまった」 「商売をしたいのか経営をしたいのかを自問して見ること だ。人・モノ・金と情報をどのように組み合わせるかという プロセスの違いが商売と経営の違いだ。おい、どうだ。次 世代を担うべき次は育っているか!」

そこまで話していたら、一番下の席にいたその店のオ ーナーが私の席まできてビールを注いでくれた。

「戸敷さん、この店の責任者を呼ぶので、今の話もう一度 してくれませんか。商売と経営の違いの話、してくれませ んか。仕事は出来るやつなんですが、人を育てられない んですよ。丁稚 3 年、手元 3 年、修行 3 年の話をしてやっ て下さい。いずれうちの会社を任せたいと思っている男 ですから。そろそろ商売人から足を洗わせなきゃならん」

それから座は経営談義で盛り上がった。初春の夜、い い酒を飲みました。