経営者のための人材育成コラム

「体得」の時代 〜何かを学ぶ時の心得〜

    剣術の世界では、「竹刀」と「木刀」、「木刀」と「真剣」では意味が決定的に違 います。

     

    「竹刀」は訓練のために用います。初心者が、剣術を学ぶための入り口として、 ある意味、本番を迎えるための準備として使います。太刀捌き、体捌きなどの体 の動きや勝負に臨む間合いを学びます。最初から「真剣」を使って練習をすると 命がいくつあっても足りません。

     

    「木刀」は「竹刀」と平行して用いられます。剣術の型を学ぶと同時に、いわゆる 「真剣勝負」の模擬戦として使います。「竹刀」は所詮「竹刀」であって、実際の 勝負の機微は、学べません。達人にとっては「真剣」とほとんど変わりなく、もち ろん簡単に相手を殺すことができます。

     

    「真剣」とは、文字通り、まがい物ではなく、本物の「日本刀」のことで、命のや りとりをするものです。触れれば皮膚は切れ、当たり所によっては骨を断ち、究極、 相手の命を奪います。まさに、命を懸けた戦いは「真剣」で行います。

     

    物事を学ぶ時には、順序があります。 まず、その事柄に対する概論や歴史や意味を知るという座学を中心とした学びです。 学ぶ対象への大まかなイメージや、モチベーションを上げるためのエピソード群を 知るということは、学びの入り口では非常に重要なことです。 これを「習得」と言います。

    そして、その後、あるいはそれと平行して、実際に活動を行い、新たなものを獲得 していきます。物事は、頭だけで理解できるものではなく、現場に出かけたり、実 際の対象物や対象者に会い、新たな発見や気付きにより、深く理解することができ るようになります。 これを「体得」と言います。

    例えば、英会話を考えてみればいいでしょうか。 英語を母国語としない人々は、まったく何の知識もなく、英会話をはじめることは 出来ません。最低限の単語といくつかの構文を学ばなければ、スタートラインにす ら立てないのです。同時に、いくら単語を覚え、構文を覚えたとしても、英会話が できるとは言えません。単語を覚えながら、構文を覚えながら、同時に英会話を実 際に行わなければ、本当の意味がつかめません。 つまり、「習得」が単語を覚えたり構文を覚えることであり、「体得」が稚拙でも 実際に外人と会話を始めることです。

     

    先日、「研修」で会社の改善をしてくれという依頼を受けました。詳しく話を聞く と月に何回か企業訪問をして、幹部達に「改善のやり方」を教えて、それで改善を してくれという話です。 「習得」と「体得」の話をするのですが、どうも依頼者である経営者はそのあたり の「差」が良くわからないようで、「習得」も「体得」も同じではないか、と言わ れる。 手元に「竹刀」と「木刀」と「真剣」があったら、目の前に突きつけて、違いを分か らせることができたのですが、なかなかそのあたりのニュアンスの違いを言葉で 理解してもらうのはむずかしいようです。 ちなみに、その経営者の部屋の本棚には、びっしりと「ハウツウ本」が並べられて いました。 気をつけなければ、この「習得」と「体得」という違いを忘れてしまうことがあり ます。特に情報化社会なので、膨大な情報が自分の周辺にあふれ返っています。 そして、読んだだけで、見ただけで、聞いただけで、「なるほど」と納得してしまっ ていることは少なくありません。

    今は、間違いなく「乱世」です。 「乱世」は「体得」でなければ、渡っていけません。

     

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