企業を含めた組織の中で、もっとも少ない行動は【説得する】という行為です。

 

そんなことはない。私はいつも上司を説得していますよ、と言われる方がいらっ しゃるかもしれませんが、実際には「説得して」いるのではなく、提案に対する 「納得」かまたは「許可」をもらっているだけです。 そもそも、組織の中で誰かを説得する、などということはそう多くあることでは ありません。おおむね組織は「階層(ヒエラルキー)」になっていますから、組 織の中で通常行われる行為は「命令」や「指示」で事足ります。

上からものを言 えば話は下に流れていく。
下同士で話す時も、「社長が言っているから」「部長 が言っているから」ですぐに話は通ります。組織は、階層なので、極論をすれば 「嫌なら辞めてもいいぞ」 という脅しが背後にはあります。 その中で、誰かを説得するというのは、実際には非常にまれなことであることが 分かります。

 

実際の人生や生活の中でも、親や兄弟や家族を説得して、というこ とは日常的にあることではありません。
ところが、組織の中に「5S活動」という全社が絡む活動では、【説得する】とい うことが必須の要素となります。なぜならば、全社で取り組まなければならないこと が分かっているにもかかわらず、組織の中には「反対者」が必ず存在するからです。 「変わりたくない」 という心情は、人間が持っている本能のようなものです。さまざまなやり方を獲得 するまで、時間をかけ、練りこんできたのです。それを「変えろ」と言われても、 はいそうですか、とたやすく変われるものではありません。

「なぜ、そんなことをしなければならないのか?」

「なぜ、そこまでやらなければならないのか?」

「なぜ、自分達がそこまでやる必要があるのか?」

組織内から、多くの異論と反対が沸き起こります。 実際には、社会の仕組みや経営環境が激変しているのですから、自ら、自分達の組 織を変え、時代に適応しなければ生き残ってはいけません。 しかしながら、それが分かっていても、組織の中には「動こうとしない人たち」が 必ず出てきます。 そして、つらいのは、組織の上部に位置する人たちの中にそうしたことを言い出す 人がいるということです。いくら、社長が「5S活動」をすると言い出しても、専務 や部長が反対していると、なかなか組織として動けるものではありません。 そのときに「改善リーダーたち」は上司や反対者を【説得】をしなければなりません。
業務に関しては上司に当たる人々に対して「教育訓練」や「会議」などを通して、 【説得する】ということを行う必要が出てきます。 実は、この【説得する】という行為が、「人を育てます」。

 

「5S活動」は、業務と離れたところで行う活動なので、階層、すなわち職位に左右 されることがあまりありません。逆に「組織を変えよう」とする人々が活動の中心に なります。その人たちは、組織の中の活動に対する反対者や熱心ではない人たちを 「教育訓練」して、活動に引き込まなければならないのです。 「5S活動」を組織内で引っ張る人たちは、時代変化に合わせて組織を変化させる人 たちと重なります。 「組織内の反対を説得して」 「組織内の不協和音を正して」 「組織内の温度差をなくして」・・・・。

時代が大きく変わるとき、組織自らが「変化」しなくてはなりません。 そのとき「5S活動」で育った人たちが、その組織を引っ張っていきます。 実は、組織全体を動かす「5S活動」は、人材育成の強力なツールなのです。